はじめに
一瞬で、非接触で測定できる放射温度計。
忙し食品の現場では欠かせないアイテムです。
でも、食品用の放射温度計の選び方が分からない人は、多いのではないでしょうか。
「1000℃くらいまで測定できるけど、こんなに必要?」
「中心温度計に比べて壊れるのが早い気がするけどなんで?」
このような疑問を持つ方も多いはず。
そこで今回は、食品用の放射温度計の選び方と、おすすめの食品用の放射温度計を紹介します。

食品用放射温度計(非接触温度計)の特徴

放射温度計は食品業界だけでなく、工業・農業など幅広い分野で使用されています。しかし、販売されている放射温度計は、「〇〇業界向け」など区分されていることは少ないです。
ここでは、食品用放射温度計の特徴を解説します。
測定できる温度が食品向き
食品用の放射温度計は、温度の測定範囲が-50℃~300℃前後が多いです。
食品現場で測定する対象が下記の温度帯があれば十分だからです。
温度が低いものは凍った食品(-18℃以下)
温度が高いものは揚げ油(200℃前後)
工業用などで使われる放射温度計は、1000℃以上まで測れるものもあります。溶かした金属や炉の温度を測定するためです。
しかし、測定できる温度範囲が広がると、精度が悪くなります。
そのため、食品用の温度計は-50~300℃くらいが適しています。
放射率の設定が食品向き
放射温度計は測定するものが発する赤外線を感知して、温度を測定します。
赤外線を発する割合は物質により違うので、放射率というものを設定して補正する必要があります。
下記の表は、放射率の一例です。
アスファルト | 0.85 | カーボン | 0.98 |
コンクリート | 0.65 | 皮膚 | 0.97 |
土 | 0.95 | 水 | 0.98 |
木材 | 0.98 | 海水 | 0.98 |
紙 | 0.92 | 雲 | 0.98 |
布 | 0.75 | 肉・魚 | 0.98 |
プラスチック | 0.95 | 野菜 | 0.98 |
ゴム | 0.95 | パン・菓子 | 0.98 |
馬・豚 | 0.98 | 穀類 | 0.98 |
油 | 0.98 |
食品の放射率はほとんどが0.85~0.98の間に入ります。
そのため、放射率が0.85~0.98の間で変更可能な放射温度計を選びましょう。
食品用放射温度計(非接触温度計)の選び方

ここでは、食品に使う放射温度計の選び方を解説します。
温度範囲で選ぶ
先ほど解説したように、食品現場での測定範囲はほとんどが-50~300℃以内です。
温度の測定範囲が広すぎる放射温度計を選ぶと精度が悪くなるので、-50~300℃に近い放射温度計を選びましょう。
防水性能で選ぶ
食品の現場は洗い物の飛沫や、煮炊きする鍋からの水分で非常に濡れやすい環境です。
放射温度計は防水性能がない製品が多いですが、一部メーカーからは防水の放射温度計が販売されています。
防水性能がある放射温度計の方が消耗は遅くなります。しかし、防水性能があるといっても完全に防げるわけではありません。
例えば、水蒸気は粒子が細かいため防水であっても、本体内部に多少は水分が入り込んでしまいます。
防水であっても、放射温度計は消耗品であると考えて使用したほうがいいでしょう。
レーザーマーカーの種類で選ぶ
放射温度計はレーザーマーカーにより、どの辺りを測定しているのか表します。


上記の画像のように、1点レーザーや2点レーザーなどいくつか種類があります。レーザーのポイントが多くなるほど、どこを測定しているか分かりやすくなります。
前提として、放射温度計は1点レーザーが当たっているところをピンポイントで測定している訳ではありません。
1点ポイントを中心とした円の平均温度を測定しています。測定する円の大きさは、測定する距離が離れるほど大きくなります。
そのため、レーザーマーカーが1点よりも2点の方が、どこを測っているか分かりやすくなるのです。
レーザーマーカーについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
放射温度計のレーザーマーカーの種類について
おすすめの食品用放射温度計7選
佐藤計量器製作所 SK-8920
メーカー | 佐藤計量器製作所 | 電池 | 9V電池 1個 |
測定範囲 | -40~250℃ | 放射率 | 0.98、0.92、0.85 |
防水性能 | 無し | レーザーマーカー | 1点式 |
佐藤計量器製作所の食品用の放射温度計です。
食品用というだけあって、液晶付近に肉や魚などのイラストが描かれており、そこに矢印を設定するだけで、放射率が合うようになっています。
食品業界では定番の食品用放射温度計ですので、とても使いやすい製品です。
チノー IR-TE
メーカー | チノー | 電池 | 単4型電池×2本 |
測定範囲 | -40~300℃ | 放射率 |
0.95 (0.80~1.00の範囲で内部スイッチにより0.05ステップで可変可能) |
防水性能 | IP67(水洗い可能) | レーザーマーカー | 1点式 |
放射温度計では少ない防水型の温度計です。
防水等級はIPX7なので、水で丸洗いができます。忙しい現場ですので、水で簡単に洗えるのは嬉しいですよね。
ただし、防水性能を高めるために、ボタンは「測定ボタン」しかありません。そのため、放射率を変更するには本体内部のスイッチを操作する必要があります。
防水性能を重視するか、放射率の切り替えやすさを重視するかは難しいところです。使用する環境に合わせて選んでください。
A&D AD-5617WP
メーカー | A&D | 電池 | ボタン電池LR44×2個 |
測定範囲 | -33~180℃ | 放射率 |
0.95(固定) |
防水性能 | IP67(水洗い可能) | レーザーマーカー | 無し |
コンパクトなスティック状の放射温度計です。
胸ポケットなどに入れて手軽に持ち運べます。
防水性能はIPX7なのでチノーの放射温度計と同じく、水で丸洗いが可能です。
値段も安く使いやすい放射温度計ですが、測定可能な温度が180℃までです。揚げ油の測定など、少し温度範囲が足りない場合が出てきます。
180℃まで測定出来れば十分!という方におすすめです。
A&D AD-5612WP
メーカー | A&D | 電池 | CR2450×1個 |
測定範囲 | -33~220℃ | 放射率 |
0.10~1.00 |
防水性能 | IP54 | レーザーマーカー | 無し |
中心温度計と放射温度計が一体になった温度計です。
中心温度計と放射温度計は別々の方が使い勝手はいいです。
ただ、2台持ち歩いたり・保管したりするのは大変という方には、一体になったタイプがおすすめです。
防水等級はIPX4。
水の飛沫に対して保護されるので、丸洗いはできません。水がかかる程度では壊れないので、防水がないタイプよりも安心です。
サンワダイレクト 400-TST805
メーカー | サンワダイレクト | 電池 | 9V乾電池×1個 |
測定範囲 | -50~260℃ | 放射率 |
固定 |
防水性能 | なし | レーザーマーカー | 1点式 |
測定した温度を最大32個までメモリーできるため、HACCPの温度管理にも便利な放射温度計です。
体温測定モードもあるため、従業員の体調管理にも使用可能。ただし、医療機器ではないので、あくまで目安の体温となります。
バックライトや電池残量表示など、細かい機能も充実。
調理の温度測定だけでなく、体調管理にも使用したい方におすすめです。
シンワ測定 防水防塵温度計73036
メーカー | シンワ測定 | 電池 | 単4乾電池×2本 |
測定範囲 | -60~550℃ | 放射率 |
0.1~1(0.1ステップ) |
防水性能 | IP54 | レーザーマーカー | 2点式 |
防水防塵になっているため、小麦粉など粉ものを扱う現場でも使用できる温度計です。
デュアルレーザーやバックライトなど基本的な機能が充実。
最高・最低温度や平均温度、アラーム機能など付加機能も豊富です。
オプテックス PT-5LD
メーカー | オプテックス | 電池 | 9Vアルカリ電池×1個 |
測定範囲 | 0~500℃ | 放射率 |
0.95、0.70 |
防水性能 | IP67(丸洗い可能) | レーザーマーカー | 1点式 |
防水性能が高く、汚れても丸洗いできる衛生的な放射温度計です。
高さ1mから落下しても耐えられる耐衝撃性があるため、忙しい厨房で落下させても大丈夫。
設定温度になったら知らせてくれるアラーム機能や連続測定機能など、効率化できる機能が満載です。
データメモリ機能もあるので、HACCPにも使えます。
ただし、-10℃から表示しますが、カタログスペックでは測定範囲が0℃からなので、冷凍食材の受け入れには使用できません。
アズワン TN49SJBUG 3-097-01
メーカー | アズワン | 電池 | 単4乾電池×2本 |
測定範囲 | -60~760℃ | 放射率 |
0.1~1(0.1ステップ) |
防水性能 | 無し | レーザーマーカー | 2点式 |
2つのレーザーマーカーが出るので、どこを測定しているか分かりやすい放射温度計です。
離れた場所から測定するときなど、測定対象から測定エリアが外れてしまうことがありますが、この放射温度計なら安心です。

USBポート付きでデータをパソコンに移せるので、HACCPなどでデータ管理が必要な際も便利です。
まとめ:食品用放射温度計
食品の現場に欠かせない放射温度計。
中心温度計と比べると、選び方が難しいため、食品の現場に合わない放射温度計を使っている可能性があります。
食品の現場では、
・温度範囲
・放射率
・防水性能
に注意して選ぶようにしましょう。
適切な放射温度計を使えば、日々の業務の負担が減るはずです。