はじめに

食品の現場では、ガラス温度計・中心温度計などいろいろな温度計が使われています。
それらの温度計は社内規則だったり、HACCPだったりで、定期的に校正が必要です。
以前は、どこの食品工場にもあった水銀の標準温度計。
最近では見かける機会が少なくなってきましたが、まだまだ使っている工場はあるはずです。
そこで今回は、ガラス温度計(標準温度計)を使用した校正の方法を解説します。

中心温度計の校正はデジタル温度計で行うのが主流

以前、温度計の校正は絶対に必要?やらないとどうなる?で紹介しましたが、
現在は精度が良いデジタル温度計を使った校正が一般的です。
こちらはサーモポートのTP-800PTです。
精度が±0.15℃ととても良いので、現場で使っている中心温度計の校正に向いている製品です。
現在は、中心温度計の校正はこのような精度のよいデジタル温度計で行うことが一般的です。
ただ、以前は標準温度計と呼ばれるガラス温度計で校正を行うことが一般的でした。
標準温度計は水銀の膨張を利用して温度を測定するのですが、
経年劣化がとても少なく10年以上使用し続けている事も珍しくありません。
そのため、まだ使い続けている方も多くいらっしゃるので、
標準温度計の使い方の注意点をお伝えします。
水銀が入っている標準温度計なんて使っても大丈夫なの?

標準温度計の主な材料は水銀とガラスです。
食品関係の仕事に従事している人ならすぐに分かると思うのですが、どちらも食品の現場には向きません。
まず、ガラスは破損すると異物混入の元になります。
そして、水銀は身体に悪影響を与えますので、大きな食品工場では絶対に製造現場には持ち込めません。
現在でも標準温度計を使用しているのは、
現場とは別に校正室を持っている大手食品工場か規則が厳しくない中小の会社でしょう。
もし、みなさんが標準温度計での校正を考えているようでしたら、製造現場には持ち込まずに事務所など異物混入の可能性が無いところで校正をしてください。
標準温度計の測定時の注意点は?
ガラス温度計は測定したいものに浸けるだけで測定できるんじゃないの?
って思うかもしれませんが、実はいろいろと注意しないといけない点があります。
温度計を浸ける長さに注意する

標準温度計は下の部分に水銀溜まりと呼ばれる箇所があります。
ここに水銀がたくさん入っていて、
水銀溜まりの水銀が熱により膨張することで上のほうの管(毛細管といいます)に伸びていき温度を表示します。
よくある間違った使用例が、水銀溜まりだけを液体に浸けての測定です。
本来はもっと上まで浸けないと正確な温度は指示されません。
水銀溜まりだけ浸けても温度が低く表示されてしまいます。
それではどこまで浸ければいいのでしょうか。
多くの温度計は全浸没と呼ばれるものです。
全浸没は水銀が上がっていったところまで完全に浸かるようにしなくてはなりません。

例えば25℃を測定する場合は、25℃より少し上まで浸けるようにしなくてはなりません。
ただ、水に浸かったままだと目盛りを読み取ることが出来ませんので、温度を確認するときだけ少し上げて素早く読み取りましょう。
本当は温度計をどれだけ液体から出したかによって、補正する計算式があるのですが、中心温度計の校正でそこまでシビアになる必要は無いでしょう。
目盛りを読み取るときの目線に注意する
次に注意をしなくてはならないのが、目盛りを読み取るときの目線の角度です。デジタル温度計だと誰が読み取っても25℃は25℃ですが、標準温度計の場合は見る人によっては25.3℃になったり24.5℃になったりします。
これは主に目盛りを読み取るときの目線の角度が原因です。
目盛りに対して上からでも下からでもなく、まっすぐに見るようにします。
これにより読み取り時の誤差が少なくなります。
液切れに注意する
最後に注意していただきたいのは液切れです。
これは水銀が途中で切れてしまい毛細管の中に残っている現象です。

上記の図のように上のほうに水銀が少し取り残されているのが液切れです。
これに気づかずに測定をすると実際よりも温度が低く指示されてしまいます。
直す方法はいくつかあるのですが、破損させてしまうと買い替えなのでメーカーに修理に出すほうがいいでしょう。
自己責任でもやってみたいと言う方は下記の方法を試してください。
①軽い液切れの場合
少しだけしか水銀が離れていない場合は、水銀溜まりを下にして3cmほどの高さからトントンと机に何回も落としてみてください。
この衝撃により水銀がくっつくことがあります。
①で直らなかった場合は、水銀溜まりと逆側をもってブンッと上から下に振り落としてください。
絶対に滑って投げてしまわないように気をつけてください。
これで遠心力がかかり水銀がくっつくことがあります。
振り下ろす前に冷凍庫に入れておくと水銀が下のほうに集まり、遠心力が効きやすくなります。
これで駄目でしたら諦めてメーカーに修理に出してください。
水銀の液切れが起こる原因は保管中の衝撃が考えられます。
標準温度計を横にした状態で、引き出しの開け閉めなどの衝撃がかかると水銀切れが起こってしまいます。
また、別の工場に行くときなど車の後部座席などに置いておくと、走行中の振動などで液切れが起こってしまいます。
標準温度計の保管・持ち運びはできれば縦にしておくようにしましょう。
おすすめの校正用の温度計
日本計量器工業 標準温度計No.1(0~50℃) No.2(50~100℃)
こちらは水銀を使用した標準温度計です。
標準温度計は50℃ごとに区切られて製造されるので、校正にはNo.1(0~50℃)とNo.2(50~100℃)の2本が必要です。(0℃と100℃を校正するのであれば)
経年劣化が少なく、長年使える温度計です。
サーモポート T-800PT
0.01℃の分解能を誇る高精度温度計です。
IPX6の防水性能、レコード機能、本体は抗菌樹脂など高機能な温度計です。
標準温度計のように温度毎に2本買う必要もありません。
少し金額が高いですが、これを1台持っておけば、温度の標準器として困ることはないでしょう。
さいごに
精度のよいデジタル温度計が発売されている現在では標準温度計のメリットはあまり無いと考えています。
それでも今まで使い慣れているからの理由で標準温度計を使い続ける場合は、今回の記事をよく読んで注意して使うようにしてください。
メリットはあまり無いといっても、私は温度計の中で標準温度計はとても好きな製品です。現在、日本で製造しているメーカーは2~3社しかありません。このまま需要が減り続けていくと日本からガラス温度計の製造技術は失われてしまうでしょう。
ですので、現在もガラス温度計を使われている方はこのまま使い続けていって欲しいと思っています。